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ひまわり [エッセイ]

祖父は、とても口数の少ない人だった。
夏休みや年末年始に遊びに行っても、大抵はずっとテレビの前の定位置から離れずにいて、
”お腹すいてない?”
”一緒にお散歩に行こうか?”
などと、逐一世話を焼いてくれた祖母とは対照的に、
私たちが騒ごうが泣こうが、子供のする事にはあまり関心がないように見えた。

 

ハイカラだった彼は、いつも仕立ての良い背広にお洒落な靴や時計を身につけていて、孫の目から見ても粋で格好よかった。スポーツとお洒落が好きで、甘いものに目がなくて、そして何よりも芸術を敬慕していた。
美術を愛し、音楽を愛し、仕事の合間を縫っては、趣味の範疇を超える熱心さでもって自ら油絵を描いたりもした。
そんな祖父から影響を受け、娘である母はピアノを習い始め、そしてその娘である私も時を経て、同じく音楽の道を志すようになった。
芸術家としての私のルーツは、間違いなく祖父にあるのだと思う。

 

いつだったか、遊びにきた私たちに、祖父が手料理を振舞ってくれたことがあった。
烏賊のリングフライ。帆立のバター焼き。天ぷら。
料理上手だった祖父の料理は、そのどれもが素晴らしい出来栄えだったのだけど、ちょうど思春期でダイエット中だった私は、少ししか食べることができなかった。
「なんだ、もう食べないのか。美味しいのに」
残念そうに呟く祖父の姿を思い出すたび、今でも胸の奥が小さく疼く。

 

そんな祖父が亡くなって、もう何年も経つ。
遺品の整理をしていた時、祖父が愛用していた財布の中に、一枚の写真が入っているのを見つけた。
無邪気に笑う、幼い頃の私。
「ゆきちゃんのこと自慢の孫だって、よく皆に見せて回ってたのよ」
懐かしそうに母が微笑む。
不器用な祖父がこちらに向けていた背中は、思い返せばいつだって優しく、リビングの何故だかほっと安心できるその場所が、私は大好きだった。

IMG_1101.jpg

実家の居間に飾ってある、祖父が描いた大きな油絵。
この絵を見ると、北海道の輝く夏の光とともに、
「よく来たね」
そう言って私たちを出迎えてくれた、祖父の温かな笑顔を思いだす。

ひまわりが大輪の花を咲かせる季節が、今年ももうすぐやってくる。

 


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