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7.パンがコサックダンスを踊っていたことに対する考察 [ドタバタ留学記]

7.パンがコサックダンスを踊っていたことに対する考察

今日は最初の家で私を悩ませていたあるものについての小噺をひとつ…。

それに初めて遭遇したのは、十一月も半ばの事でした。木枯らしが舞い、熱いスープが美味しく感じられるようになり始めた冬の朝、それは台所の真ん中に、静かに横たわっていました。
こぶし大の、濃いグレーのかたまり。
寝ぼけまなこだったこともあって、私は最初それを野菜くずか何かが落ちているのだと思いました。
持ち上げようと触れ……思わず数歩後ろに飛び退きました。
ぐにゅっと柔らかく微妙にふさふさ……。思いがけない手触りに恐る恐る目を凝らしてみて、ようやくその正体に気づきました。

ねずみでした。
しかも死骸。 「ねずみ」という生き物を実際に見たのはこのときが初めてでした。

それまで、私にとって「ねずみ」には2種類の認識がありました。
ひとつは「トムとジェリー」や「ハム太郎」(彼らはハムスターですが)などに通じる可愛い小動物としてのイメージ。
そして、もうひとつは下水道で何千何万という数でうごめく気持ちの悪い存在。
その時横たわっていたねずみは明らかに後者として私の目に映りました。

どうして私の目の前にねずみがいるのか。
百歩譲って元々家のどこかにねずみが住みついていたのだとしても、どうして彼らの巣の中ではなく台所の真ん中で息絶えているのか……。

様々な思いが頭の中を渦巻き、ねずみを触ってしまったというあまりの事態に、私はしばしの間叫ぶことはおろかその場から動くことすら出来ず、床に足が張り付いたごとくただ立ち尽くすばかりでした。

何をねずみごときで大袈裟な、と思われた方、確かにヨーロッパではねずみなんてそう珍しいものでもありません。
しかもここはチーズ王国オランダです。ねずみにとってはパラダイス。遭遇しない方が不思議だとも言えるでしょう。

でも、私は蜘蛛やカメムシに絶叫し、ごきぶりなんか目にした日には床に足をつけることもままならず一日中ベッドの上で震えているような人間なのです。
虫たちの何倍も大きい「ねずみ」は私にとってあまりに強烈すぎました。

――私は一体どうしたらいいのだろうか。
床に張り付いた足をなんとか引き剥がしたものの、私は困惑しきってしまいました。
そのまま放って置きたいところだけど、それで彼(または彼女)が自動的に移動してくれるなんてことはまずありえない。
結果やはり私がなんとかしなければいけないのだ、ということを漠然と理解しました。

もう近づくのも嫌だったけれど、だからといって小ねずみ一匹にわざわさ誰かを呼ぶというのもあまりにも情けなく、私は勇気を振り絞ってそのミミズのようなしっぽをつまみあげました。ティッシュを10枚ほど使ったにもかかわらず、ほのかに弾力を持ったしっぽの感触はしっかりと指先に伝わってきて……。庭までの数十秒、気が遠くなりそうでした。

やっとの事で庭に辿り着き地面に穴を掘ると、そこに死骸を埋め、側に咲いていた花も申し訳程度に飾りました。哀れな小ねずみの冥福を祈るとようやくほっとして、逃げ帰るように部屋の中へ駆け込んだのでした。

 

しかし、話はこれで終わりではありません。彼らはその後もたびたび私の前に姿を現し続けたのです。
ある時は台所の片隅で、はたまたリビングの真ん中で、朝起きると彼らは冷たくなって横たわっているのでした。

一言ことわっておきますが、私の家はけっして不潔な環境ではありませんでした。2日に一回は隅々まで掃除機をかけたし、食べ物を置きっぱなしにしていたこともありません。
それでも彼らは1ヶ月に一度の割合で死骸として現れ、小ねずみの墓は増えてゆくのです。

夜中私が寝静まったのを見計らって巣から出てくるも、厳しい寒さに耐え切れずに息絶えてしまうのでしょうか?
死んでいるのはやせ細った小さな子供のねずみばかり。段々そんな彼らに同情心が芽生え、可哀想だなと思うようになりました。
よくよく見ればその短いグレーの毛並みだってくるりんとしたしっぽだってそう気持ち悪いこともない。
むしろ愛らしいくらい……とはやはり思えませんでしたが。

結局私はその後、訳あって引越しをしました。新しい家ではもうねずみを見ることはありません。
でも、今でもごくごくたまに彼らの事を思い出すことがあります。
夏も近い今の季節、もうきっと寒さに凍えることもないでしょう。元気でいるといいな。そう思います。
――とは言いつつも、やはり今度の家には住みつかないでほしい、と切実に願っているのが正直なところでもあったり。
麗らかな日差しが眩しい日曜日、今日も念入りに掃除をしている私なのです。

余談

チーズ王国オランダでねずみはどこの家にもいるものだということを知ったのは、その後しばらくしてからのことでした。
私が目にしていたのは常に冷たくなった彼らでしたが、とある友人はちょこまかと動き回る姿をもよく見かけているそうです。
また別の友人は毎朝戸棚の中のパンが少なくなっていくのを疑問に思っていたところ、ある朝そのパンが自ら飛び跳ねているところに遭遇したといいます。
(後で確かめたところ、中身はねずみに食べられて見事に空洞だったそうです)

うーん。ディズニーのアニメを彷彿とさせるエピソードです。


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